こんにちは!Team designerのGenです。
オフィスだと問題なく意思疎通できるけど、リモートワーク対応になってチャットでやり取りしているとどうもうまくやり取りできない、なーんて悩んでいませんか?あるいは、久々の出社でメンバーとのコミュニケーションがなんか減った気が…以前より意思疎通がうまくいかないなんてことも。。
今回は、そんな悩みの解決になるかはわかりませんが、言語学やコミュニケーション論の視座からヒントになるようなお話ができればと思います。
コミュニケーションは単なる言葉(テキスト)のやり取りだけではありません。それらの言葉を通した「相互行為」が行われているということを理解しておくことが重要です。というのも、言葉の意味と発話者の「期待」や聞き手の受け取り方は必ずしも一致しないからです。
例えば、「なんかこの部屋暑いね」というと、「窓開けてほしい、エアコンつけてほしい」といった解釈ができますよね。
あるいは、いつもタメ語で話していた相手が急に敬語になると「なんか怒ってる?」と思ってしまったりすることもあったりしませんか?
このように、言葉の意味だけでなくそれを取り巻く「何か」でもやり取りがされているのです。これをコンテクストと呼んだりしています。
些細な事と思うかもしれませんが、コミュニケーションは常に「選択」です。相手が何を言うかによって多くの分岐点を経て「関係構築」をするのです。コミュニケーションはテキストだけのやり取りだけではなく、あらゆるメッセージを送りあっているのです。
4つの格律*を実践できているか振り返ってみよう
*格律(Maxim):行為の動機となる普遍的基準や原則のようなもの
皆さんは「協調の公理」をご存じでしょうか?
会話(相互行為)として、相手の聞かれたことに対して答える情報の量や内容が話者間の関係構築に関係すると考えることができます。Grice(1975)は人々が会話をする際、「協調の公理」に従って会話が行なわれると考えました。協調の公理では、必要以上でも以下でもない適した分量の情報を伝えることとする「量の格律(quantity)」、嘘であったり根拠のないことを伝えないこととする「質の格律(quality)」、関係のある情報を伝えることとして「関係の格律(relation)」、明確に、完結に順序だって話すこととする「様態の格律(manner)」という4つの格律で構成され、人々はこれに則って会話を行うと考えました。この4つの格律を「協調の公理」と呼ばれます。
それではそれぞれの格律を見てみましょう!
量の格律(Quantity)
・要求に見合うだけの情報を与えること
・要求されている以上の情報を与えてはならない
例えば、
「どこらへんに住んでる?」と聞いて、
「東京都~区1-2-3 ○○マンション102号室です」と答えられるとびっくりしちゃいませんか?
い、いや、そこまで聞いてないんだけど…ってなりますよね。逆に「地球」と答えられると、それはそれで「しっとるわ!!!」ってイラっとしちゃいます。
このように、相手に聞かれたものに対して同等の量を発話することが期待されると考えられるのです。
質の格律(Quality)
・偽りだと思うことを言ってはならない
・充分な証拠のないことを言ってはならない
こちらはわかりやすいですね。いい加減なことやウソ言っちゃダメってことですね。
関係の格律(Relation)
・関連性のあることを言え
例えば、「今日の予定は?」と聞いたら「お腹すいた」と返されたらどう思いますか?「話聞いてる?」って思いますよね。相手の発話内容に関係する内容を話すことが期待されると考えられます。
様態の格律(Manner)
・曖昧な言い方をしてはならない
・多義的な言い方をしてはならない
・余計な言葉を用いず、簡潔な言い方をせよ
・整然とした言い方をせよ
こちらは例えば、
「このタスクの期限っていつまでだっけ?」
「あ、昨日さイタリアンレストランでパスタ食べたんだけど、めっちゃうまかったんだぁ。」
こちらも「なんで今その話したの?」ってなりますよね。
これらのように、人々は4つの格律に則って会話を行われると考えられているのです。
え、あえて話そらすこともするじゃん。
その通りです。
格律を意図的に乱すことで「意味」を作り出すこともあります。これを「含意」(implicature)と言われます。例えば、今その話ができないときに話をそらしたりして、そのメッセージを相手に送ったりするのです。(関係/様態の格律の違反)
もしかしたら自分が気にしていないところで相手との協調性の構築がうまくいっていないかもしれません。4つの格律に則れているか、あるいは「含意」がちゃんと伝わっているか振り返ってみましょう。
グライスの公理はチャットなどのやり取りでも有効ですよ!さらに、普段のオフィスでの会話もより具体的にすることで、より円滑なコミュニケーションをすることができたりします。
チャットでのやりとりではテキスト依存になり、コンテクストが伝わりづらいです。オフィスでのコミュニケーションにおいても、場合によっては(普段から会話が少ない職場であったり、まだ相手との関係構築ができていないなど)同様に起こりえます。
具体的な対応策として、オンサイトの場合は、寝不足や疲れで口数が少ない時は、そのことをあらかじめ相手に伝えておくとか、リモートの場合はオンラインでレビューするときやしっかりディスカッションをするときは時間を決めておくなどして、お互いのコンテクストを共有することが有効です。
リモートワークでは、自宅で子供の世話などでドタバタしていて、返信がちゃんと返せない時があると思います。相手が意見を聞いた時に、忙しくてとりあえず「いいと思う!」なんて返してしまうと後々話が進んだ時に「あの時いいって言ったじゃん!」と相手との関係構築がうまくいかなくなってしまうかもしれません。
「より多くのチームがデジタル化してリモートワークに向かうにつれて、あなたが普段オフィスで行っているような「ニュアンスを含むコミュニケーション」がオンラインでも翻訳されるとは限らないということを覚えておくことが重要になってきます。」( How To Embrace Remote Work Trello Ultimate Guide, Evernote)
オンラインでのコラボレーションはコンテクストの共有がカギになってきます。時間の設定で状態を把握できるようにするなどして、コンテクストを見える化しましょう。
また、今回紹介した「グライスの公理」を活用したり、普段のオフィスでの会話より具体的にしたりするなどして、円滑なコミュニケーションを目指しましょう。
今日はこんなかんじで!
それでは!
参考
Grice, H. P. (1975). Logic and conversation. In Cole, P. & Morgan, J. (Eds.) Syntax and semantics, Volume 3 (pp. 45-46). New York: Academic Press.
How To Embrace Remote Work Trello Ultimate Guide. p.8
https://blog.trello.com/remote-work-team-success-guide?utm_source=newsletter&utm_medium=email&utm_campaign=trello-mar2020-newsletter1