皆さんは「ことば」について考えたことはありますか?
私たちが毎日使っている、「ことば」。
人と話す時には「ことば」を使って伝えます。
じゃあ「1人」では使わない?
そんなことないですよ!
文字を読む、聞く時、にも使っていますね。
そして頭の中で何かを考える時も「ことば」を使っているんです。(もちろん言葉ではなくイメージで考えることもありますよ!)
今回は「ことば」についての学問である「言語学」を少しだけ紹介したいと思います!
言語学とは、人々が使う「言語」の構造や意味について科学的に研究する学問領域のことです。
言語学は大きく分けて
・言語が持つ文法などの規則性について(ラング)
・実際の言語使用(パロール)
の2つの側面があります。
ラングでは、例えば「r(アール)とl(エル)の発音はどう違うのか」など発音のメカニズムについて考える「音声学」や「日本語と韓国語は文法が似ているのか」など語の並べ方について考える「統語論」などが挙げられます。
一方で、パロールは「どのようにして誘いを断るか」「“この部屋暑いね”という発話の含意は何か」などの言語使用についての学問である「語用論」が挙げられます。
当初の言語学は文法・文構造の研究など、「言われたこと」(テクスト)に焦点を当てた研究が主流でしたが、それだけでは理解ができないということが分かってきました。
そこで、言語使用(語用論)や社会言語学・言語人類学などといった「社会や人々の関わりの中での言語」(コンテクスト・相互行為)に関する研究が発展してきたのです。
アメリカでは、1889年に「人類学の父」と言われるフランツ・ボアズは、「先住民は聞いた単語と違った発音をする。我々と比べて発達が遅れているからだ!」みたいなことをいった論文に異論を唱えました (当時、「先住民は遅れている」みたいな風潮の研究が多くあったようです)。
ボアズは音の単位である「音素」を発見し、「同じ音でも認識に異なりがある」と主張しました。この発見がのちにサピアやウォーフなどによって言語と文化(意識・無意識)のつながりに発展し、アメリカ言語(人類)学になっていったのです。(後々別の回でお話しできればと思います...)
すごく大雑把に言語学についてご紹介してきましたが、もっと深くていろんな領域があって歴史も長いですよ。面白いです。
たとえば、「イタリア語が話せるなら、スペイン語もすぐに話せるようになる」とか「ポエムという言葉の語源はポイエテス、ポイエテスは作る人という意味で、昔はエンジニアと詩人に区別はなかった」とか「モンゴル語は語順も日本語に似ていて、一番親しみやすい」、聞いたことはありませんか?
あれは言語の系統が似ているからです。
私は日本語話者の日本人でありながら、アジアの言語にうといのでヨーロッパの話をしますと、インド=ヨーロッパ語族という、言語のグループがあります。そのおおもととなっているのがラテン語です。
たとえば、英語の辞書を引いてみて、[Latina]と書いてあれば、それはラテン語由来のことばであることがわかります。ほかにも[Greek]や[German]などもあるでしょう。それぞれ、古代ギリシア語やゲルマン語を先祖にもつ言語です。
でも大本となると、もはや誰も話している人がいない、古代ギリシア語やラテン語にたどりつきます。2300年前の人たちが話していた言語。なんだかロマンティックですね。もちろんこのロマンティック(romantic)も、読んでわかるとおり「ローマ風の」という意味で、千年王国ローマの趣味っぽい、という意味を持ちます。
いまの現代社会の文化の多くが、ヨーロッパの方から来ていますよね。もちろんアジアだってアフリカだって、文化的に見たら負けてはいませんが、それでもヨーロッパの影響を感じることはしばしばあります。家だってトイレだって洋式ですし、コンピュータだってスマホだって、舶来(!)のものです。
そのうち、アメリカは近代の国ですけどヨーロッパは歴史ある国です。その国の文化的な源泉となっているのが、古代ギリシアと古代ローマです。このふたつは、だいたい学校の教科書でも一緒くたにならうので、どうしてもごっちゃにしがちです。本屋さんにいっても、『古代ギリシャローマ』みたいなタイトルの書籍がどっとならんでいますよね。
実際は、全く違う国でした。歴史はどちらかというと古代ギリシアのほうが古く、アリストテレスやソクラテス、プラトンが活躍しています。そのうち、プラトンは失脚してローマへと渡っていますので、ローマの文化はギリシアから受け継がれている側面が強いのです。
ちなみに、アリストテレスは海外からの留学生でした。いつの時代でも留学生は最先端の国にいきますので、いかに古代ギリシアが先端的だったかがわかりますね。そして、これは非常に重要な歴史的事実ですが、アリストテレスとプラトンは、師弟関係ではなかったとされています。非常に仲が悪く、アリストテレスはプラトンを完全に馬鹿にしていて、
「アリストテレスの学校リュケイオンは学費を取っていたけれど、プラトンのアカデメイアは学費無料。プラトンは数字が計算できないバカ」
と書いた、アリストテレスのメモが見つかっています。(史実です)
アリストテレスの残したテキストには、世の中の問題がすべて書かれているといわれます。アリストテレスほど優れた哲学者は過去においても未来においてもいないからです。たとえば、正義について考えてみましょう。
アリストテレスは、正義も分割でき、かけ算で計算できる考えました。貴族が1で、一般の平民が2で、奴隷が3だとすると、貴族がふたつの罪をおかした場合、平民のひとつの罪と相殺できると。単純なかけ算ですが、正義は計算可能だと考えたのがアリストテレス最大の功績のひとつです。
プラトンは・・・よくわかりません。生涯、イデアを追い求めていたようですが、どうもその哲学の背後には、個人的な挫折があったことも、最近の研究ではわかっています。
あと、言語学はAIで用いられる「自然言語処理」も含みます。
初期はELIZA(イライザ)というプログラムが出てきました(iPhoneのSiriに「イライザって誰?」って聞いてみてください)。ELIZAは「言われたこと」に対する反応をするだけの素朴なプログラムでした。近年では、技術の発達によってかなり自然なやりとりができるプログラムが出てきました。
しかし、「コミュニケーション」というのは簡単に理解できるものではありません。AIが人間のように話せるようになるのはまだ先の話かなぁと思います。
全然時代も背景も違う、ボアズやアリストテレスや、言語学まわりのことを、ぼちぼちとお伝えしていきました。
言語学はとても面白いですよ。言語学だけでも十分、奥が深く楽しめますが、そのうち文化人類学なども併せて研究すれば、もっともっと、この世の中のこと、世界のこと、人間のことをしれて、楽しいのではないでしょうか。
学問は、象牙の塔の研究者だけのものではありません。大学が好きな人も、苦手な人も、自由に研究してつきつめていいのです。人間とは本当に未知で、不思議な存在だと言うことがわかりますね。
言語学を学びだしたら人生が何年あっても足りません。そして、充実した人生を歩むために、1分でも1秒でも、早く学んだ方がいいのは確かです。言語学を学んで、よりコミュニケーションを楽しみましょう。
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