
ドイツでも保険に加入していればコロナワクチンをはじめ、インフルエンザ等のワクチン接種を受けることが可能です。私もベルリンへ来てワクチン接種を数回受けました。今回は日本へ一時帰国を行うのでそれに合わせて接種したインフルエンザワクチンとコロナワクチン4回目に関するレポートと、ドイツでの奨励接種ワクチンについて紹介をしたいと思います。
国内ではコロナのワクチンに関して「他のヨーロッパの国々より遅れている」と不満の声が挙がっています。一方オランダでは迅速にワクチンのキャンペーンが進み、日本にいる50代の両親や78歳の祖母より当時22歳の私が先に打てました。弊社内でその話をするとオランダをはじめとするヨーロッパでは政府がアジャイルな対策をしているからではないのかという仮説が浮かび上がりました。そこで今回はなぜこのようにヨーロッパではワクチン接種がスムーズに進んだかを考察します。
目次
既存のシステムを使った
ワクチン接種が進んだ第一の理由としてオランダでは国民が使い慣れた既存のシステムを使って予約をできるようにしたことが挙げられます。以前ブログで紹介した、オランダの政府が国民の身元を確認するための行政ログインアプリDigiDが予約の際に使われました。普段は税金の支払いや家賃補助の受け取り、住所変更などに使われているのでオランダに住む人なら誰でもDigiDの使い方を知っています。
初回の接種の際は日本のように接種券が一応届いたものの、それがなくても自分の番が回ってきたことをRIVMというオランダの厚生労働省がSNS(FacebookやInstagram等)にアップするストーリーで確認できれば、DigiDを使ってウェブサイトから予約ができました。しかも予約当日にキャンセルが出ると即システムに反映されるようで、通常は予約から接種まで数日から一週間ほどかかるところ、私は予約当日の午後に接種できました。日本の接種券の受け取り→病院探し→予約という手順より融通が効きますし、キャンセル時の臨機応変な対応により無駄をなくすことができたことは日本よりワクチン接種が早く進んだ要因の一つだと考えられます。
接種会場では?
接種会場は写真(中央白色の建物)の通り、ランダムな場所(空港の隣や適当な空き地など)に建てられた簡易の掘建小屋だったり、大きなホールを貸し切ったりして、ワクチン接種のためだけの場所という感じでした。中も必要最低限で、記入済みの問診票を受付に提出し、その問診票を接種ブースに持って行き、再度本人確認と健康チェックをされたらすぐに接種されて待機の部屋へ行くよう促されます。筆者が行った接種会場では受付は8ブースほど、接種ブースは体感で15-20ブースほどが稼働していました。
この設備設計は必要最低限だけ準備して、不備があれば足したり引いたりできるようになっているので、「アジャイル」だと言えるのではないでしょうか。加えて、日本は医師による予診があり、接種後の待機時間もオランダの倍である(完璧主義)のに対し、必要なことだけを済ませて数を捌いていったということもオランダでのワクチン接種が早く進んだ要因かもしれません。
薬局が大活躍
筆者は昨年夏に友人に会うためにパリを訪れました。その頃はちょうどコロナパスというワクチン接種済みであること、コロナにかかったものの回復したこと、もしくはPCR検査で陰性だったことを証明するものが使われ始めた頃でした。私は渡仏時にワクチンを2回接種後一週間以上経っていたので、レストランや博物館などに入るために必要だったQRコードをワクチン接種証明から取得することができたのですが、同行者がまだであったため、パリ滞在中に一度陰性証明を発行してもらう必要がありました。
そこで気づいたのが、薬局で薬剤師によるテストが実施されていたことです。オランダでは当時旅行用の検査でもテストセンターを予約してからしかテストを受けられなかったのですが、パリではウォークインで薬局でテストが受けられました。実は街中に掘建小屋ですらない小さな白いテントも張られており、これまたウォークインで気軽に検査を受けられるようになっていました。このように気軽に検査が受けられる環境は日本にはなかった、もしくは未だに少ないのではないでしょうか。もし日本でも完璧を目指さず必要なものだけをとりあえず揃えることができていれば、リソース不足に悩まされ続けることなく今頃「みなし陽性」という言葉はなかったかもしれませんし、ワクチンの接種にさらに多くのリソースを割けたかもしれません。
ワクチン接種会場の選択肢も豊富
フランスでのワクチンの接種に関しては、オランダのように既存のオンラインプラットフォームで予約してからの接種に加え、家庭医や薬局、予約なしでのワクチン接種が可能なようでした。(参照)オランダもブースターショットが始まる頃になるとウォークインなどの選択肢が増えっていったとはいえフランスのほうがリソースの確保が早く、迅速にワクチンの接種が進んでいったような体感があります。必要なものをとりあえず揃えて運用するという点ではオランダと似ていますが、既存の建物や人材をさらに効率よく使うことによってワクチン接種を進めるためのリソースを確実に確保していました。このようなことから、オランダより早くワクチン接種が進んだのだと考えられます。
ドイツでのワクチン接種
せっかくヨーロッパのことについて書くのであればということで弊社のドイツ在住メンバーのさらさんに体験談を語っていただきました。
ドイツではワクチン接種が高齢(80歳以上)の方から始まり、医療関係者、幼稚園や学校の先生が優先的にワクチン接種が始まったそうです。一般の方が予約できるようになる頃には接種券なしでの予約が可能になったものの、全年齢に一度に解放されたため、ウェブサイトに繋がらないなど予約が激戦で、予約してからも接種までに2-3週間かかったそうです。オランダも職業や健康状態によりワクチンの優先度が決められましたが、一般解放後は年功序列で生年月日順に予約開始できる日時が違ったので、予約はドイツほど激戦ではありませんでした。
会場や設備に関してはオランダと似ており、使われなくなった空港やアリーナなどを大規模接種会場にして(今あるものを使って)いたそうです。やはりここでもアジャイルな側面が見られました。
さらさんが思う、ドイツが日本より早くワクチン接種を進められた理由
さらさん曰く、大きなポイントは「弱い人を守る」という点に関してドイツが長けていたからワクチン接種がスムーズだったとのことです。まず、ドイツでは職業をシステムに登録しているので、医療関係者や介護職などのエッセンシャルワーカーが見つけやすく、優先的に接種券を送ることができ、一般市民により早くワクチンを回すことができたのに対し、日本での職域接種は直接現場に出ていない関係者も関係者としてワクチン接種をしていたので、「その他」の人々に回ってくるのが遅れたと考えられます。加えて、オランダと同様、ドイツも既存のウェブサイト(元々家庭医や近くの病院を探すのに使われていたシステム)からワクチンのオンライン予約ができたようです。一括でそのエリア一帯の接種会場の予約状況が確認できたため、複数の病院の予約状況を見て回る必要がなかったことも予約がスムーズに進んだ要因の一つだと考えられます。以前こちらのブログでも触れられているとおり、「信頼できる唯一の情報源」は意思決定のプロセスを高速化できます。これらの理由によりドイツは日本より迅速にワクチン接種を進められたのでしょう。
ワクチン接種を進めるにあたって、上記のヨーロッパ3ヵ国では、必要最低限なものや環境のみを揃えて運用し、うまくいかなかったことを改善する「アジャイル」な体制がとられていたように感じました。日本のマイナンバー制度はオランダやフランス、ドイツで今回使われたシステムほど浸透していないのでうまく使われなかったのかもしれません。しかし、「信頼できる唯一の情報源」を作り出すことや、準備を必要最低限にとどめること、臨機応変な対応など、真似できる部分は少なからずあるはずです。これからは日本でも、時間の限られている非常時にこそアジャイルな考え方をベースに色々な対策がなされるといいなと思います。
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ドイツでも保険に加入していればコロナワクチンをはじめ、インフルエンザ等のワクチン接種を受けることが可能です。私もベルリンへ来てワクチン接種を数回受けました。今回は日本へ一時帰国を行うのでそれに合わせて接種したインフルエンザワクチンとコロナワクチン4回目に関するレポートと、ドイツでの奨励接種ワクチンについて紹介をしたいと思います。
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